芸人をやってると、皆それぞれ、様々な修羅場に遭遇してくるものだ。
オレにも忘れたくても忘れられない営業が、芸人になってまだ1、2年目の頃にあった。
それは、熱海の某所で行われた某団体の方々の忘年会での余興の営業に行った時の話。
「今年は最強のお笑い四天王をそろえますから!」と、相手先に伝えていたのが、
今回のとりまとめ役だった、お笑いアンダーグラウンド界の帝王・GO!ヒロミ44’さん。
そのGO!さんに、「ネタ終わったら、あとは熱海の温泉でもゆっくりつかってさ・・・」
と誘われて、年末のピクニック気分で同行してしまったのがオレ。
そして、元気いいぞうさんと、チャーリー東京さんだった。
そのお笑い四天王の我々を待ちかまえていた会場、それは・・・・・・・・
上座に金屏風、そしてびっしり並んだ卓の列列列・・・
どっかで見たと思ったら、完全にVシネだ!修羅の群れだ〜!
そう、それは修羅の皆様方の忘年会の営業だった。
そして夜、いよいよ修羅の皆様の宴の幕が上がった・・・・・。
司会のGO!ヒロミ44’さんが舞台に上がり、
ご挨拶代わりに百戦練磨のトーク術で、まずは軽く笑いを取って・・・
くれなかった・・・・・・・・・・・・ひいてる、修羅の、咳払いの声が大きく聞こえてくるのは気のせいでも夢でもない。
さらに良く見ると、なんとそこの大幹部様の方のお膝元には、専用のマイクが置かれてあり、
大幹部様がそのマイクで直々に、我々お笑い四天王のネタにダメだしをするという
なんとも、ありがたくない、これぞまさに、“修羅のショービズ”状態だった。
GO!さんが何か言うごとに、大幹部様のきついダメ出しのお言葉と、ご列席の方々からの怒号と物が飛んできた。
そんな中でも、なんとか無事に血を見ずにご挨拶を終えたGO!さん、そして声高々に
「それではまずはトップバッターの登場です〜〜大型新人〜猫ひろし〜〜!」
とオレを呼び込むとともに、ついに地獄の扉が開かれた。
それまで舞台袖で観てた時点でオレの思考回路は完全にショートキャット!
こうなったら「見る前に飛べ」、「抜く前に中で出せ!」の精神で舞台に登場、必死になってネタを始めた・・・・・・・。
しかし当然ながらスキャンティ一枚の小男のギャグ百連発も、実弾系100連発の実績を持つ方々の威力には勝てず、
鳴かず飛ばずだからネタもどんどんどんどん早送りに…。
ネタの間、大幹部様よりマイクによるダメだしと、ご列席の皆様からの怒号怒号怒号。
ウケルウケナイより、我が身を守ることが先決で、さわらぬ修羅にたたりなしという事で、
持ち時間5分を、実にウルトラマンよろしく、3分弱できりあげ退散。良かったぁ〜、無事に終って・・・・・。
逃げるように、舞台袖に引っ込んだオレに代わって、
体格の良さとネタの鋭さは天下一品の元気いいぞうさんが登場。
実は今回のこの席では、絶対に触れてはいけないアンタッチャブルな話題があって、
「それだけは、たとえネタでも言っちゃなんねぇ〜」と、その土地の長老に止められていたキーワードがあった。
ところがそこは、元気いいぞうさん、持ち前の前向きな差しさわりのあるネタを次々披露し、しまいには
♪だ〜〜〜れ〜〜〜が〜〜●●●●したのかな・・・・・?
なんてこの場に不似合いの、火に油を注ぐようなことを言うもんだから、
それはそれは、ご列席の皆さんの怒りと怒号を買った・・・・・。
元気いいぞう2分失神KO!
この時点で、すでに我々「お笑い四天王」には、棺おけが用意されたものだった。
そして次は、実際に棺桶に片足を突っ込んでると言ってもおかしくない年齢の、チャーリー東京さんの登場。
このご高齢のほとんどアルツハイマーの芸人さん、
外見もネタも、クラッシックな古典的マジックネタをご披露・・・・・。
また怒号・・・・か・・・と思いきや、
それがウケルウケナイではなく、なんと修羅の皆様は高齢者芸人にはご寛容であったのだ。
そこで我々3人はコレ幸いと、自らが恐怖で短縮した持ち時間を、
チャーリ大先輩に穴埋めしてもらうべく、時間引き延ばしの合図を、舞台袖から必死に送り続けた。
おかげで、なんとか予定時間をつないで、
そしてこの地獄の宴会余興芸人のトリをとる我らがGO!ヒロミ44’さんの出番となった。
舞台に上がったGO!さん、ネタ前にご列席の方々へ
「もしこのネタがウケなかったら、私、芸人やめさせていただきます。」
と高らかに宣言した。
緊迫した会場、まさに一触即発状態だ・・・・・・舞台袖のオレも息を呑んだ・・・
「ホンモノの芸!それは・・・・・・モノマネです・・・・・」と言うGOさん。
しかしGOさんと長くお付き合いさせてもらっているオレでも、GOさんの物真似なんて一度も見たことがない。
大丈夫だろうか?と心配して見ていたら、GO!さん、いきなり己のチンポを出し、それを自らしごきながら、
「まあ〜〜〜このぉ〜〜〜〜・・・・」
と、田中角栄のモノマネを始めたのであった。
これには、なんと今までお怒りの修羅の皆様も何故か大爆笑のオオウケ。
下ネタか〜、下ネタがうけるのか〜!
それに続けて、またまたチンポをしごきながらの
「ボク〜ドラえもんです〜〜〜〜〜!」
コレもウケタ。
正に下ネタ界の金ちゃんじゃなく、欽ちゃんだった。
そしてそのまま終わればいいものの、ウケタことに気を良くしたGO!さんはこともあろうか、
「それでは皆様、この男がもう一度リベンジをさせていただきます、猫〜〜〜ひろし〜!」
と、オレを舞台に呼び込んだのだ!
場内は異様な盛り上がりで最高潮のボルテージ、
震えるオレの気弱なネタに、またまた修羅の大幹部様からありがたいマイクのダメだし
「そんなんじゃねえだろう!おめえもドラミちゃんやれよ!」
と、教育的指導をいただき、これぞほんとに死ぬ思いで、
オレは舞台の上でケツを出して、アナルを見せながら
「ドラミちゃんで〜〜〜〜す!」
と絶叫した!その阿鼻叫喚なオレの姿に
「やればできるじゃねえか!おい、猫!おまえ売れるぞ!」
(全裸で売れるわけねえだろ!)
と言う言葉は、自分の小さな胸に綺麗にしっかりとしまい、大幹部様よりのお褒めの御言葉と思い、ちょうだいし、
舞台の幕は降ろされた・・・・・・・・・。
そして我々お笑い四天王は、舞台終了後の唯一の楽しみであった温泉さえも忘れ、ニャ〜ダッシュで逃げ帰ったのだった。
今こうやって振り返ると、
芸人になり始めの頃にこんな恐ろしい営業を体験したから、
その後の営業は、多少のつらさでも、けっこうなんでもなく思えることができた。
とにかく皆さん、お仕事はお互い安全作業で行いましょう。
*写真の方が、持ち時間を引き延ばしていただいたすご腕の持ち主、チャーリー東京大先輩。
